今回は新川帆立さんの短編集を読みました。
以下、あらすじと感想。
一、動物裁判
「黒猫のココアさん」チャンネルに訴えられたボノボのレオ。
動物にも人間と同じような権利がある世界で、動物専門弁護士が裁判を戦う。
レオはタブレットを使って人間と会話が出来るため、話せない猫のココアの感情を感じとり通訳をする形で出演していた。
しかしある日の配信で性的な行為をしてしまったレオは、ココアに精神的苦痛を与えたとして損害賠償を求められる。
調べを進めると原告のココアの飼い主と被告のレオの飼い主は恋愛関係だった事が分かり。
レオの弁護をしている主人公はレオの飼い主の琴美に想いを寄せるようになって行き。。。
動物の裁判てどうやって行うのだろう?と思ったら、話せない猫側は翻訳機を使うという。
最後はどんでん返し系で面白かったのですが、琴美が誘いに乗った意味がよく分からなかったです。
主人公を助けようと嘘をついたのなら分かるけれど、最後がバッドエンドなので。
二、自家酒造の女
自家製の酒を作れるのが一人前の女性という世界で、寺田万里子は酒造教室に通う。
一緒に通っている一花は夫からの家庭内暴力や家族ともうまく行っていないことで悩んでいるが、そんな鈍臭い一花を万里子は疎ましく思っている。
ある日夫の実家に酒を作って持っていかなければならなくなった万里子は大変焦る。
万里子は料理も酒造りも下手だった。
そんな時一花が上手に酒を作れるようになったと聞き、一花の作った酒を持って行く。
夫の実家では喜ばれたが、ことあるごとに酒を送るように要求されるようになり。。。
主婦目線ではこのお話はすごく面白かったです。
「市販の麹を使うなんて!」という世界なのですが、私もだしの素とか使うし結局そっちの方が安くて早くて美味しい。
最後に義母からかけられる言葉も良かったです。
オチも「そうだよね」って思う感じで面白かったです。
三、シレーナの大冒険
カンクハ村に暮らすシレーナ。
この世界はフィービーとバービーという種類の生命体で構成されている。
別世界のフィーワールドに旅立ったエンジェルの帰りを松シレーナ。
ある日体の一部が黒くなるブラックアウトが起きてしまう。
そこへ少年の見た目のフィービーが通りかかり助けてくれる。
彼はフィーワールドから来たミノルという少年だった。
ミノルと一緒にフィーワールドにエンジェルを探しに行くシレーナだったが。。。
バーチャルの世界を利用したお話です。
仲間だと思っていたバーチャルワールドの住人にも裏切られたり、ちょっと切ないお話でした。
恋愛要素があったり、バトルっぽい要素があったり、短編では勿体無いくらいの内容だったので、続きが読んでみたいなと思いました。
四、健康なまま死んでくれ
成瀬はヤマボンという会社の倉庫で働く37歳独身男性。
母の介護をしながら働いている。
送迎バスの中で出会った田畑は成瀬とは正反対の明るいキャラで、今日が初出勤だった。
労働者保護法が施行されている世界で、労働者の過労死は許されず健康を維持するための規則がある。
過去に過労死の死亡事故を出しているヤマボンにも当然厳しい健康管理の規則がある。
過酷な仕事の中、田畑がピックする予定だった注射器が見つからないという事件が起こる。
更に元上司がパチンコ屋の駐車場で死体で見つかる。
犯人に心当たりのある成瀬は犯人に接触し。。。
過労死を防ぐための過剰な健康管理がかえって過労を引き起こすという皮肉ですね。
現代社会への批判的なところが面白かったです。
ラストは悲しいですが。
五、最後のYUKICHI
現金を持っているのを悪とする世界で、三平は小銭を回収する仕事をしていた。
感染症は現金を通してうつるというのを信じた人々は、現金を手放そうとする。
それどころか現金を病気の根源とし現金所持者狩りを行っていた。
三平の実家である佐渡など一部の田舎では、海外マフィアとの取引にいまだに現金を使っている。
そのために農家の三男の三平は都会で小銭を回収する仕事をしていた。
現金所持者狩りに巻き込まれた三平は、同級生の拓郎を訪ねるが、彼もまた現金所持者で一緒に逃げることになる。
知り合いを訪ねて逃げ回るうちに拓郎と離れてしまうのだが、拓郎は日銀に立てこもていると知り。。。
私も電子マネーやクレジット払い派なので、現金で払う人は近い将来いなくなると思っています。
その一方で拓郎のように小銭をじゃらじゃらさせたり匂いを嗅いで楽しんだりというのも分かる気がする。
お金の匂いって独特だけどちょっとクセになりますよね。
いつかは無くなると思うけど無くなってほしくないような、複雑な思いですね。
六、接待麻雀士
賭け麻雀が高齢者の健康寿命を伸ばすことが分かり、違法ではなくなった世界で「接待麻雀士」という職業に就いている塔子。
後輩のセクシーなプロ雀士の由香里がこの日は一緒に接待麻雀をすることになった。
接待は小手森という男だったが、どうやら由香里と知り合いらしい。
上司の五郎と接待麻雀という名のイカサマで勝たせる麻雀を進めていくが、様子がおかしい。
接待麻雀なので相手を勝たせなければならないのだが、明らかに由香里と小手森がわざと負けている。
更に五郎の様子もおかしくて。
追い詰められた塔子はどうするのか。。。
麻雀がわからない人にはどういう状況なのかがいまいちわからなかったかもです。
最後もモヤっとした終わり方だったから、最後のお話くらいスカッと系が良かったかなと思ってしまいました。
新川帆立さんといえば、弁護士系のミステリーなイメージが強かったので、「SFも書くんだ」という印象です。
ハマるかハマらないかは個人により感想が違うかと思います。
私的には面白かったですが、新川さんは元彼の遺言状系のリーガルミステリーは読みたいなとは思うかな。
気になる方は是非読んでみてください。