月の立つ林で 〜月はいつもそこにある〜
今回は、青山美智子さんの「月の立つ林に」を読みました。
短編ですがそれぞれが繋がっているお話です。
以下、あらすじと感想。
1章 誰かの朝
元看護師の朔ヶ崎怜花は求職中で実家に住んでいる。
お隣の樋口さんが旅行に行くので猫のルナを預かってほしいという。
退職して時間のある怜花は猫の世話をするためにパソコンで情報を検索する。
そのついでにいつも聴いているポッドキャスト”ツキのない話”をきく。
毎朝7時に更新されるこのポッドキャストは、タケトリ・オキナという人物がやっている月に関する話だった。
マイペースに好きな演劇を続けている弟の佑樹と比べ、真面目に生きてきが損をしてばかりの自分をいつも比べてしまう。
そんな時ハンドメイド作家が作る指輪を見つけて。。。
2章 レゴリス
宅配便の仕事をする本田は元はコンビで芸人をしていた。
大学時代に人を笑わせる快感を知ってしまい、就職を蹴って上京し芸人になった。
しかし相方が辞めてしまいピンで”ポン重太郎”として活動することになるが全く売れなかった。
相方は華があり才能もあったが自分には何も無い。
フリーで活動しているとはいえ今は配送の仕事がメインになってしまっている。
そんな本田にもわずかなSNSフォロワーがいて、青いスクーターのアイコンの”夜風”だけがいつもいいねをくれる。
ある日ドラッグストアに寄ろうとすると隣のバイク屋に元相方のサクが働いていた。
劇団員として活躍しているというサクを見たくなかったため、一切情報を見ないようにしていたので偶然の再会だった。
電話番号が変わっていないなら電話しても良いかと聞かれ、うんとしか答えられない本田。
休憩中にサクの劇団について調べると、次の公演でサクは主演になっていた。
落ち込みながらもお気に入りのポッドキャストを聴き、月の話を聴いているうちに少し気持ちが落ち着いた。
その夜妹から掛かってきた電話で久しぶりに帰省することを決め、続けて掛かってきたサクからの留守電を聞きこのままではダメだと思い本田は自分を変える決意をする。
3章 お天道様
高羽の元に娘と彼氏が訪れ結婚すると告げられる。
妊娠もしていて、結婚後は福岡に住むと言い出した。
バイクの整備工場を妻と二人で経営してる高羽は、娘の出産で手伝いに行くという妻に一人残されてしまう。
妻の勧めで日用品をインターネットで注文するようになったが、いつもお届け通知に本田の名前があり、バイク好きな高羽は好意的に思っていた。
娘の結婚相手を良く思えない高羽は、いつも修理を届けに来るバイク屋のサクちゃんに、これが娘の結婚相手だったら良かったのにと思ってしまう。
サクちゃんの劇団ホルスも太陽神という意味だというが、太陽は父なるものだといい、自分も父親なのにあまりにもちゃちすぎて恥ずかしい気分になる。
娘の亜弥を心から思っているのに上手くコミュニケーションが取れないでいる。
妻は福岡で亜弥とその夫と楽しく過ごしているようで、頼りにされる妻が羨ましかった。
そんな時、出張でこっちに来ている亜弥の夫が一人で工場を訪ねて来ると言い。。。
4章 ウミガメ
ポン重太郎が面白いと呟いていた”ツキのない話”をポッドキャストで聴いていいる。
両親は小さい頃に離婚し今は母と住んでいるが、母は家に帰ってこないことが多く家にいてもあまり話さない。
卒業したら家を出ると決めバイトを探そうとするが学校と保護者の同意が必要だと知り、ウーバーイーツの仕事を始めようとする。
原付の免許をとりスクーターを買おうとすると、ブルーで3本の傷があるベスパを見つけ”夜風”と名付ける。
しかしバイクを買うにも保険に入るにも親の同意が必要と知り、母には通学用と言いなんとか夜風を手に入れる。
ある日ウーバーの仕事で配達に行くと、そこはなんとクラスメイトの神城迅の家だった。
窓を開けていて入ってきてしまったスズメを助けるために二人で奮闘する。
”劇団ホルス”のチラシを見つけ、迅の父が劇団の主催者で迅はバイトとして小道具を作っていることを知る。
自分もやりたいと申し出て、その日から迅の家に通うことになる。
迅の家には色々な人が出入りしているが、母親は小さい頃離婚していないと言う。
切り絵作家だった母親に、邪魔をしたくないと離婚する時に父について行くと言ってしまった。
ある日家に帰ると母にウーバーイーツの仕事をしているのがバレてしまい、喧嘩になってそのままベスパで飛び出すと事故にあってしまう。。。
5章 針金の光
北島睦子はワイヤーアクセサリーの作家をしている。
義母が頻繁に訪ねて来たり、夫が家にいると集中できないので近所にワンルームのアパートを借りて作業している。
夫も義母もいい人だが、自分のアクセサリー作りのことは特になんとも思っていない。
ある日ワイヤーアクセサリーの本を出版しないかと誘われる。
そのやり取りの中で編集部のスタッフがやっているポッドキャストの存在を知り、興味のあるサイエンスのカテゴリーを開くと”ツキない話”と言う配信に辿り着く。
月と地球は離れているからお互いを良い想像だけで夢見ることができると言う話に耳を傾ける。
担当編集者の誘いでリリカと言う切り絵作家の展覧会に行くことになった。
夫に本を出版する話をしようとすると、働きすぎではないかと言われ、一緒に喜んでくれなかったことに激怒してしまう。
このまま一人で作品を作っている方が楽だと思ってしまう睦子だったが、展覧会で出会ったリリカもやはり夫と離婚していた。
一人の時間が欲しくなり離婚してしまったと聞き自分の境遇と重ね合わせる。
残してきた息子のことが気がかりだと言うリリカに、お互いに会いたいと思っているのに相手はどうでもいいんだと思うことは寂しいと伝え、相手の姿が見えないからといって想像ばかりで決めつけるのはダメだと言う話をする。
リリカの作品が月をモチーフにしたものが多いことから、ポッドキャストを勧める。
数日後目薬と間違えてアロマオイルを目に入れてしまったことから事態は思わぬ方向に動いて行く。
どれもすごく良いお話でした。
元看護師の怜花のお話は、上司と後輩の板挟みになって苦しむ様だったり、後輩の努力を水に間違った指導をしてしまい後悔する感じが、自分も経験したことがあるので胸が痛かったです。
本田みたいに自分は何者にもなれないのに、親しい誰かが成功している辛い気持ちも痛いほど分かるし。
高羽パパの話は、一人娘の私は自分の親と重ねて一番泣けました。
父と娘は素直になれないことが多いよね。
ウミガメが一番好きで、最後にお母さんと仲直りできる場面がこれまた泣かされました。
ワイヤーアクセサリーの話も、近いからこそ愛に気づけないと言うのは誰もがあることではないでしょうか。
近くにいる人ほどあなたのことを大切に思ってくれているんだよ、と言うのを忘れずに生きていきたいと思いました。
最後にポッドキャストのタケトリ・オキナの正体が分かるのですが(これも泣けます)、思っていた人物じゃなかった!
勝手にクリス・ペプラーみたいな渋い声のおじさんが配信しているのだと思っていました。
このお話を読んだらポッドキャストのお気に入りを探したくなってしまいました。
素敵な配信に巡り会えそう!
気になった方は是非読んでみてください。