元図書館司書主婦の読書日記

趣味の読書のブログです。

ファラオの密室〜ミステリから古代エジプトを知る〜


紀元前1300年代後半、古代エジプト
死んでミイラにされた神官のセティは、心臓に欠けがあるため冥界の審判を受けることができない。
欠けた心臓を取り戻すために地上に舞い戻ったが、期限は3日。
ミイラのセティは、自分が死んだ事件の捜査を進めるなかで、やがてもうひとつの大きな謎に直面する。
棺に収められた先王のミイラが、密室状態であるピラミッドの玄室から消失し、外の大神殿で発見されたというのだ。
この出来事は、唯一神アテン以外の信仰を禁じた先王が葬儀を否定したことを物語るのか?
イムリミットが刻々と迫るなか、セティはエジプトを救うため、ミイラ消失事件の真相に挑む!
浪漫に満ちた、空前絶後本格ミステリー。
 
以下、あらすじと感想です。
このミス大賞受賞とのことで、かなりハードルが上がる中読んでみました。
物語は主人公セティの親友、ミイラ職人のタレクと神官長のメリラアのエピローグから始まります。
ここが結構な伏線だったことは2度目に読んで気づきました。
メリラアによる葬送の儀の際に、先代の王アクエンアテンのミイラが密室から消失すると言う事件が起きます。
そして第1章では舞台が変わって、主人公セティの死後の様子からスタートします。
日本で言う閻魔様に生前の行いの良し悪しで天国か地獄かを決められるように、女神アマトが心臓と羽を天秤にかけ、釣り合えば汚れなきものとして楽園へ、心臓が重ければ罪を犯したものとして怪獣の餌食になると言うもの。
その際にセティは心臓に欠けがあって判定できないと言われます。
心臓を3日以内に取り戻し冥界に戻らなければ永久にトキを彷徨い続けるとのことで、セティは現世に戻り心臓を探すことになります。
そもそもの死因がピラミッドが崩落して下半身を岩で潰され、なぜかナイフが心臓に刺さっていたと言うことで、生き返っても義眼だし義足だし、かなり異質な見た目をしているはずなのですが、現世の人たちは生き返ったセティを「久しぶり!」くらいのテンションで普通に受け入れます。そこは古代エジプトだからなんでもありなのかな。
そこからセティの心臓探しの旅が始まります。
 
第2章ではメインキャラが変わり、カリという異国の奴隷の少女がお話を進めていきます。
エジプト兵にさらわれ奴隷にされてしまったカリは、毎日ピラミッドの石を運んでいます。
なぜかカリの班だけいつも作業が遅く、体が小さいカリがいるのせいだとみんなに疎まれ、班長からも体罰を受けます。
辛い生活の中にも、飼い犬のスゥが唯一の友達でした。
ある日パンの数を誤魔化していたと言う濡れ衣でスゥを売られてしまうのですが、結果的にスゥを買ったのはセティの親友タリクでした。
偶然タリクと出会い助けてもらったことで、カリはタリクに恩を返すためセティの死の真相を追うのでした。
 
街では葬送の儀を失敗した神官たちを皆殺しにする暴動が起き、セティは逃げるのですが、実家に帰ったところを捕まってしまいます。
ここでの親子愛が一つの見どころ。
なんとか逃げ延びたセティは王の墓を目指します。
一方石運びの謎を解いたセティとカリも、犯人とその仲間に命を狙われ共に逃げます。
そしてタリクとカリもセティを探すため王の墓に辿り着くのですが、セティと合流して墓の中を調べようとしたところで一緒にいた真犯人に罠に嵌められ、セティとカリだけ墓の中に閉じ込められてしまいます。
 
ここから二人で力を合わせてミイラ消失の謎解きをしていきます。
 
この設定でなければならないトリックだったので、なるほどなぁと思いました。
セティと父の親子愛も見ものですが、セティとタリクの関係性にも実は…と言うところがあってびっくりさせられるものがありました。
そして古代エジプトの人の生活が見られるところも興味深かったです。
世界史でサラッとやったな、くらいしか今まで接点がなかったので。
トリックに関してはそんなに上手くいくかな?と言う感じがしないでもないですが。
しかしよく出来たお話なので、このミス大賞受賞も納得の出来だと思いました。
 
エジプト好きな人も、全く興味がない人も、ミステリはそんなに読まないと言う人も、ぜひ読んでみてほしいです。